窓の魚
著者:西加奈子 3階-文庫・新書 913.6 //NK
この作品には終着点が無い。
これが読み終わって思った初めの感想でした。
登場するのは温泉宿の池で発見された女の死体と錦鯉。
加えてその宿に宿泊していたナツ、トオヤマ、ハルナ、アキオの四人組に、
同じく宿泊していた老夫婦。そして温泉宿の女将。
これだけを見ると、この後に事件の解明が始まるように思えますが、事態は更に複雑化します。
仲の良い二組のカップルに見える四人組は、それぞれが異なる認識をすることで、
お互いの関係を誤解した歪んだ感情を生み出していますし、温泉宿の女将は複雑な事情を抱えています。
そして殊更目立っているのは、アキオがナツに向けている歪な想い。
しかもこの登場人物たちは、各々の視点で死体が発見されるまでの時間を語っています。
これらのことが、私たちを奇妙な感覚と理解の混乱へ誘うのです。
噛み合うようで噛み合わない。
その想いと関係の行方は、貴方に何を見せてくれるのでしょう。
水面をゆらゆらと漂う錦鯉が、ぼんやりとした彩りを添える物語。
ぜひ読んでみてはいかがでしょうか。